カプサイシンは、トウガラシに特有の辛味成分です。トウガラシはナス科植物ですが、トマトやジャガイモなど他のナス科植物はカプサイシンを合成しません。なぜトウガラシだけ辛味成分を作れるのか?というカプサイシン生合成の种特异性のメカニズムはよくわかっていません。
この度、田中義行 農学研究科教授、佐野香織 城西大学准教授、古旗賢二 同大学教授の共同研究グループは、カプサイシンの強い辛味発現に重要なアミド結合をもたらす酵素遺伝子putative aminotransferase(pAMT)に着目し、トウガラシと他のナス科植物のゲノム比較を行いました。pAMTは、アミノ酸の一種γ-aminobutyric acid(GABA)の代謝に関わる遺伝子γ-aminobutyric acid aminotransferase(GABA-T)と配列がよく似ていることが報告されていました。本解析の結果、pAMTは、葉緑体局在型GABA-Tを起源として、遺伝子重複と細胞小器官局在シグナルの喪失により生じた細胞質局在型GABA-Tの一種であることが明らかになりました。次に、トウガラシが持ついくつかのGABA-T遺伝子の中でも、pAMTのみがカプサイシン合成部位である胎座で特異的に発現していることが示されました。pAMTはバニリンからバニリルアミンの合成を触媒しますが、組換えタンパク質を用いた酵素活性測定により、in vitroの系でもpAMTがバニリンに対して高い触媒活性があることが示されました。細胞質局在型GABA-Tは、トマトやジャガイモにも存在しており、カプサイシンとは化学構造が全く異なるアルカロイドの生合成に関わることが報告されています。トマトの細胞質局在型GABA-TはpAMTとは異なり、植物体全体で発現しています。さらに、これらはバニリンに対する触媒活性はあるものの、pAMTと比べると30分の1ほどでした。
以上の结果から、辫础惭罢はナス科植物が広く持つ骋础叠础-罢の一种ながらも、他の骋础叠础-罢にはない「胎座特异的な転写パターン」と「バニリンに対する高い触媒活性」の両面でカプサイシン合成に特化した遗伝子と考えられます。つまり本研究は、トウガラシだけがカプサイシンを合成するという种特异性のメカニズムの一端を明らかにしたと考えられます。
本研究成果は、2023年12月20日に、国際学術誌「The Plant Journal」にオンライン掲載されました。

「トウガラシは、コロンブスの新大陆発见以降に世界中に広まり、その辛味により人类を魅了してきた植物です。私たちは、辛味の起源を知ることで、その知见を新しい野菜や食材开発に活かしていきたいと考えています。また、そもそもカプサイシンはトウガラシにとって、辛味を感じる哺乳类を远ざけ、辛味を感じない鸟を効率的な种子散布者として选択する役割を果たしたと言われています。トウガラシはいつ辛味成分を作るようになったのか?、辛味成分がトウガラシの繁殖にどの程度贡献したか?など辛味に関する疑问は尽きません。」
【顿翱滨】
【碍鲍搁贰狈础滨アクセス鲍搁尝】
【书誌情报】
Hirokazu Kusaka, Saika Nakasato, Kaori Sano, Kenji Kobata, Sho Ohno,
Motoaki Doi, Yoshiyuki Tanaka (2024). An evolutionary view of
vanillylamine synthase pAMT, a key enzyme of capsaicinoid biosynthesis
pathway in chili pepper. The Plant Journal, 117(5), 1453-1465.